Alpine Square / アルパイン広場
7月28日出発「チベット高原大周遊と青蔵鉄道の旅 10日間」
チベットだから可能な天上のお花畑へのアプローチ
夏のチベット高原は一面が緑の草原となり高山植物に覆われます。しかし、昨今の中国の経済発展を背景とした西部大開発により、高速道路やトンネルがどんどん延び、新興地の観光開発も進んで、その奥に隠れるように広がる神秘のお花畑は見過ごされるようになったと感じます。2001年春に雲南省・香格里拉からチベット自治区・ラサまで大走破するツアーを実施した際、ルナン盆地で20世紀初頭の英国のプラントハンター、キングドン・ウォードがベースキャンプを置いた村に偶然立ち寄りました。そして文献にある植物採取を行った辺りの峠に奇跡的に車道が伸びていることを確認したのです。ヒマラヤでは何日もかけてトレッキングで山を越えてたどり着く標高5,000m近い高原を、ここでは車で労せず近くまでアプローチすることができるのです。
晴れればヒマラヤ東端のナムチャバルワを望むこの峠には近年大きな展望駐車場もでき、多くの観光客が訪れます。峠の上の秘密の天上のお花畑が荒らされてはいないか、ひやひやしながら、喧騒の中を抜けて誰もいない背後の山に登って行きました。すると貸し切りとなった山上には、今年も素晴らしい高山植物のお花畑が広がっていました。
あたり年だった幻の花々
この秘密の?花園のさらに上部は堆積した岩場となり、そこには幻の温室植物、セイタカダイオウ(学名レウムノビレ)がこの時期最も大きく成長し、2m近くに育ってニョキニョキと紺碧の空に向かって伸びています。皆さん「あった、あった!」と興奮気味で、ついつい急ぎ足になります。しかしここは5,000m近いヒマラヤ東端の高原、高山病にならないために、焦らずゆっくりと歩くようあらためて注意喚起しました。また、今回はキングドン・ウォードが発見した水色の大きな青いケシ、メコノプシス・プライニアナもたくさん咲いていました。今年は当たり年、今までここで見た中でも最も多い、セイタカダイオウと青いケシの数でした。
チベット仏教の聖地も探訪
チベット自治区の都、ラサから聖湖ヤムドク・ツォを望むカンパ・ラ(峠、4,749m)とニンジンカンサ峰の麓のカロ・ラ(5,045m)を越えて西に進み、ギャンツェのパンコル・チューデ(白居寺)を訪れました。ここはチベット仏教の各宗派にとらわれず参拝される寺で、10万仏をまつる白亜の大仏塔ギャンツェ・クンブムは眩しく圧巻です。巡礼者が右回りにらせんを描いて階を上がるにつれ、密教経典が成立したプロセスをたどる構成になっており、それが悟りの道であると言われています。敬虔なチベット仏教に帰依する人々の姿を垣間見ることも、チベットの旅を思い出深いものにしてくれます。
ヒマラヤを代表する青いケシは人知れず大群落で咲いていた
チベット第2の都といわれるシガツェからラサに戻る道は、幹線でも観光道路でもない、オフロードのままの北路を選びました。このルートは昔ながらのチベットを感じることができるからです。菜の花に彩られた村々、ヤクが放たれた放牧地、収穫前のお祭りなどを見ながらニェンチェンタングラ山脈に近づきます。シュク・ラ(峠、5,300m)ではヒマラヤ地域で最も高所に咲く真っ青なブルーポピー、メコニプシス・ホリドゥラの群落が迎えてくれました。皮肉にも幹線や観光道路ができたことによって、それらの道ではもう見ることができなくなったヒマラヤを代表する青いケシは、忘れ去られた峠で大繁殖していたのです。「この青いケシが見たかったのです!」皆さん辛い悪路に耐えたこのご褒美には大満足でした。
車窓に広がる至福の風景
ラサから青蔵鉄道でチベットを後にしました。コンパートメントの寝台車は、高所順応が充分できた後に乗ることでより快適です。スケールの大きな大自然の風景を食堂車の車窓からビールを飲みながら眺められるとは、なんだか申し訳ないくらい至福の時です。タングラ、ココシリとゆったりとしたスピードで車窓に広がる光景はどれも映画のワンシーンのようです。時折、チベット・ガゼル、チベット・ノロバなどの野生動物が近くに現れます。急峻な氷河の山々、たおやかに広がる高原、空と同色で雲を映しだす湖、大河の源流湿原と変わりゆく広大な景色にはまったく飽きません。朝から乗車し日なが風景を堪能した日暮れ時、それでも、まだまだ見ていたいと皆さんの残念そうな顔が窓に映っていました。