トレッカーにとっての高度障害 増山 茂 | |
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▲急性高山病とは? |
▲低酸素の程度 |
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▲どんな症状がでるのか A 急性高山病 新しい高度に到達した際に起こる症状。頭痛、および以下の症状のうち少なくともひとつを伴う。消火器症状(食欲不振、嘔気、嘔吐)、倦怠感または虚脱感、目眩またはもうろう感、睡眠障害。おおよそ、2500mの高度に急激に登高すると25%に上記症状が3つ以上現れる。3500mの高度ではほとんどの者が上記症状を経験し、うち10%は重症化するとされる。 B 高地脳浮腫 重症急性高山病の最終段階と考えられる。急性高山病患者に精神状態の変化か運動失調が認められる 場合。急性高山病症状がないときは、両者とも認められる場合。 C 高地肺水腫 以下のうちすくなくとも2つの症状がある。安静時呼吸困難、咳、虚脱感または運動能力低下、胸部圧迫感または充満感。また以下のうち少なくとも2つの徴候がある。少なくとも一肺野でのラ音または笛声音、中心性チアノーゼ、頻呼吸、頻脈。 |
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▲急性高山病の重症度評価 |
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▲高度障害になりやすいパターンと標高 |
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▲予防と対策 |
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高山病になりやすい体質は一部の人にはありそうですが、多くの場合はこれらのことに気をつけることで、防いだり症状をかるくすることができます。海外トレッキングに出かける直前に富士山に1、2回登ってトレーニングしておくのも有効です。 さて、高齢者は要注意。図1は標高3500mにおけるSPO2の年齢分布です。高齢者に低下する傾向があるのが読み取れます。50歳以上と以下を比較すると違いがはっきりします。また、この高度での危険値を下回るのはほとんどが50歳以上であることもおわかりいただけるでしょう。これ以上の高度をめざす高齢者は緊急用の酸素ボンベを忘れずに。低酸素は人の弱いところをねらいます。きちんと事前に健康チェックを行いましょう。慢性の疾患があって服用している場合など、主治医に緊急時の対策を確認しておかなければなりません。トレッキングの組織者やリーダーにもその情報を前もって知らせておきましょう。 |
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▲「急性の高山病かな」と思ったら 頭痛に他の症状が加わり、かつ酸素飽和度SPO2が各高度での平均値をかなり下回るようでしたらダイアモックス(250r)を1日朝夕1錠ずつ(体の小さい日本人は半錠ずつでもよい)服用すると効果的です。ダイアモックスは脳の呼吸中枢を刺激する作用があり、低酸素で「眠ってしまった」脳を刺激し、酸素の取り込みを増やします。症状が消え、SPO2が改善しても1〜2日は継続して服薬します。頭痛以外の症状が残るうちは新しく高度を稼ぐことは禁物。休養を兼ねて停滞です。 ゆっくりした日程の場合でも、以前のトレッキングトレッキングで高山病に悩まされたことのある人や、やむを得ずゆっくりした日程がとれない場合(レスキュー活動の場合や飛行機でヘリでいっきに4,000m近くに到達する場合など)には、まだ低い高度にいる当日の朝からダイアモックスを予防的に服薬します。 3,500mを超え、症状がかなりきつくなり、SPO2が危険値を割った場合、とくにそれが高齢者の場合は酸素の使用を考慮します。酸素吸入中のSPO2が90%を超える程度の流量を10分間吸入することから始めます。低酸素により脳に貯まってしまった有害な代謝物を排除できれば、これだけでいっきに改善されることがあります。酸素吸入を止めるとすぐ元の症状になってしまう場合は、吸入時間を少しずつ延ばしていきます。酸素ボンベの数と相談ですが、夜間睡眠時の少量の酸素吸入もとても効果的です。停滞しても改善がみられない場合、ひとつキャンプ地をもどすことも考えます。もちろん急性高山病患者を一人だけで下降させたはいけません。 急性の高山病が悪化して脳浮腫や肺水腫に進んでしまった場合は、早急に降ろさなければなりません。下降手段(ヘリコプターなど)を待っている間に、大流量酸素を吸入、ガモフバッグなどの携帯型加圧バッグを使用します。 高地脳浮腫にはデキサメサゾン、高地肺水腫にはニフェジピンが効果的です。両者とも劇薬ですので、医療関係者が同行するか、無線や衛星携帯電話などで連絡できる場合にのみ限りますが。 急性高山病の対策には個人だけでは限界があります。日程の決定・重症度の判断・進退の決断・パルスオキシメータの準備・医療救済機関との連絡手段の確保・酸素ボンベやガモフバッグの携帯・特殊な薬剤の用意など、トレッキングツアーの組織者やツアーリーダーの責任となる部分も大きい。信頼できるツアー組織者を選択することはとても大切です。 出典:月刊「山と溪谷」2002年4月号付録「海外トレッキング・ブック」より 「海外トレッキング・ブック」はアルパインツアーと山と溪谷社のタイアップ製作です。 |