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2015/10/13 お知らせ

登山界“おちこち”の人 スイス政府観光局の阿部かすみさんを訪ねました。

    Newsletter 2015年10月号
平成27年10月10日 第375号
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インタビュー連載 第7回


山の世界の彼方此方で活躍している人々をたずね、「そうだったのか。」を聞き出します。
本邦登山界とは深いつながりをもつ、スイス・アルプスの山々。
スイス政府観光局の阿部かすみさんにお聞きしました。



── マッターホルン初登頂から150年の節目の年です。ATS元会長、芳野満彦がこの山の北壁を日本人として初登攀してから、50年です。1969年の夏にスイスにハイキングツアーを案内した、いまは亡き芳野は、「アルプスはクライマーだけのものではない。ハイカーが楽しめる場所はいくらでもある。」と言っていました。

 1960年代半ばから70年代は、多くの日本人クライマーがシベリア鉄道を使って欧州アルプスに遠征していた時代です。航空便はアンカレッジ経由か、南廻りの時代でした。それを思うといまは北回りで、たった12時間でチューリッヒに直行できるわけですから行きやすい国の一つなのです。
 スイス政府観光局は、1976年に日本に支局が開局されました。以来、日本の旅行業界とは密接な関係をもち、ATSとも協力関係にあります。現在、日本からスイスを訪れる人の延べ総宿泊数は約44万泊です。そのうちの大半の観光客はスイス・アルプスのふもとを訪れます。最近はスイストラベルパスなどを購入する方も増えており、これはパッケージ旅行だけでなく、個人で旅行をされる方が増加しているということになるかと思います。
 日本人とスイス・アルプスの結びつきは古く、槇有恒さんのアイガー東山稜初登攀(1921年)や、辻村伊助さんの著作「スウィス日記」(1922年)がよく知られています。女性初のアルプス三大北壁登攀の今井通子さんはスイスでも著名人で、1969年に加藤滝男氏らと初登攀されたアイガーの直登ルートは今でも「ジャパンルート」として名前が残り、絵葉書もあります。
 夏のスイスは、多くの日本のツーリストがアルプス山麓を旅しています。でもATSの企画は、気軽に歩ける日帰りハイキングから、山奥の山小屋まで足をのばし、アルプスの岩肌と氷河に囲まれた景観を目の当たりにできる本格的山旅まで、幅広くスイスの山々を楽しめる工夫がされていると思います。他にはまねのできないユニークなツアープランが日本の旅行会社からどんどん発表されることを観光局としても期待しています。もちろん観光局もさまざまな提案を旅行会社にしているのです。
 例えば『歩かないスイス(歩かなくても山岳景観が楽しめるのがスイスの魅力)』や、『City Stay(町に宿泊しながら日帰りなどで山岳地を訪れる)』、『Longer  Stay(1週間や2週間シャレーやホリデーアパートメントを借りての長期滞在)』などなど、さまざまな楽しみ方をご提案していきたいと思います。また最近は「引き算」の日程も必要だと感じています。なんでもかんでも詰め込むのではなく、少しゆったりと、余裕をもった日程ですね。何もしない日が1日くらいあっても良いかと思います。そして連泊する滞在型。これからの旅行企画には必要な要素ではないでしょうか。

── パイオニヤ精神旺盛なATSは、夏だけでなく、秋から冬、春にかけて、スイスの四季を追いかけながら山旅プランを発表しています。雪上ハイキング(当時アルプス・ホワイト・ハイキング)は、1993年にATSが初めて企画しました。当時のスイス政府観光局も、「何、これ。スキー場を歩くの?」といった反応でしたが、いまや、冬のスイスの定番ツアー、「スノー・ハイキング」として育てることができました。

  スイスの四季に着眼して、年間通じたプロモーションをおこなっている会社はそう多くなく、山旅特化ではATSのみともいえるでしょう。とくに雪上ハイキングはATSならではのプロの意地で成功させた旅行プランではないでしょうか。ATSの参加者が歩くことへのこだわりがあることをよく知り抜いていたからできたことだと思います。
 新雪の中で雪をかき分けて進んでいく「スノーシュー」と、圧雪されたトレイルの上を歩く「雪上ハイキング」「スノーウォーキング」とはジャンルが違います。スノーシューはハードルが高い、と感じている方々がもっと気軽に余裕をもって楽しんでいただけるのが雪上ハイキング、スノーウォーキングだと思います。
 スイスでは、圧雪したトレイルがハイカーのために準備されている山岳リゾートがあり、雪帽子をかぶったモミの木の樹間から、アイガーやユングフラウを仰ぎ見ることもできるのです。登山愛好家にとっては、ほんとうに贅沢なハイキングです。
 また、冬のスイスをご旅行いただいたお客様のアンケートで多かったのが、「鉄道からの風景が素晴らしかった。」というものです。日本では山の奥まで入らなければ見られない山々の雪景色を鉄道に乗りながら、車窓から眺めることができるのです。
 でも、冬のスイスの醍醐味は、なんといってもダウンヒル・スキーです。ATSではツエルマット、グリンデルワルドに加えて、ゲレンデ直結型次世代リゾートとして注目を浴びている、フリムス・ラークスもプランに加えてくれています。新しい挑戦の成功を祈っています。

── ところで、ご自身は登山も自転車もランニングも、となかなかのスポーツ女子とのことですが、スイスは、そうしたアウトドアで楽しむことのできる素材が国中にちらばっているように思います。

 スイス政府観光局では、さまざまなジャンルのスポーツ・ツアーも提案しています。自転車ツアーの視察もおこなってきましたが、まだまだ日本のお客さまには馴染まないところもあるようです。でも、すがすがしい空気と景色を楽しみながらのサイクリングはスイスならではの魅力だと思います。最近は電動のマウンテンバイクのレンタルもあるのです。
 空気の爽やかなスイスですから、ジョギングなら、少し早起きしてホテルの周囲を走るだけで爽快な気分になります。ATSのお客さまは毎日健康的な山歩きをするわけですから、早朝ジョギングは不要でしょうね。
 スイスフランがこの春に急に高騰しましたが、いまは落ち着きを取り戻しています。それでもおかげさまで昨年と同じくらい多くの方々がスイスを訪れてくださっています。これまでに大きなテロなどが起こったことが無い、スイスの持つ「安心感」からでしょうか。最近は修学旅行などいわゆる教育旅行も増えています。物価の安くないスイスですが、スイスに来ていただければ、それに見合った魅力があることに必ず気づいてもらえると信じています。どうぞ、スイスにお出かけください。スイスは、四季を通じて楽しむことができる、山岳観光国なのです。
 

(インタビューおわり)


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 スイス政府観光局の局長さん、ファビアン・クレール氏は、京都大学で学ばれたこともある、若手知日派のスイス人。昨年夏には阿部さんともどもゴルナーグラート山頂のクルムホテルで夕食をともにしましたが、いざ日本へ赴任した、ファビアンさんにとって、阿部かすみさんは何かと頼りになる、“女番頭”、といったところではないのでしょうか。
 いま、「番頭の存在」が注目を浴びています。どこの組織もトップの牽引力は重要ですが、トップだけがいくらがむしゃらに突き進んでも結果を得られません。政府から零細企業まで共通していることではないでしょうか。優秀な番頭さんの舵取りと下支えがあってこそ組織が生きるのだと思います。
 ヨーロッパ以外の国でスイスへの渡航者数が多い国では、日本は5番目だ、と阿部さんから教えてもらいました。スイスでの宿泊数から割り出した人数ですが、ただ人数だけを増やすのであれば、大量仕入、大量集客の繰り返しになり、いつかは飽きられるのではないでしょうか。
 ATSは、芳野満彦が1969年に産み落とし、以来山旅特化です。歴代の番頭がトップを支え、飽きられない旅づくりに励んできました。「こんなスイスがあったのか。」と阿部さんを驚かすような、四季のスイスの山旅に期待してください。


(平成27年9月15日 聞き手:黒川 惠)