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2014/11/10 お知らせ

“創業45年の足跡をたどって”〈国内登山・机上講座編〉高山から低山まで、幅広い企画と机上講座で山を学ぶ。

Newsletter 2014年11月号
平成26年11月10日 第364号
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文:黒 川 惠  (くろかわ さとし)
アルパインツアーサービス会長

 

〈国内登山・机上講座編

北アルプス涸沢とグルカ兵
 
 1982年3月、イギリス領フォークランド諸島に突然アルゼンチン軍が進攻し紛争が勃発した。創業以来、海外トレッキングを主たる仕事として取り組んできた我が社にとって、アルゼンチンはペルーと並ぶ“南米の山旅”の主要デスティネーションであったから、(いまだから言えるけど)心情的にマルビナス諸島、と呼称するアルゼンチンの言い分に耳を傾けたかったのである。
 そんなさなかに、香港駐留のグルカ部隊の英軍将校から日本山岳会を通じて、グルカ部隊の北アルプス登山計画が寄せられてきた。グルカは当然英軍傭兵のネパール人兵士たちで、英軍将校数名とともに20人くらいでやってきた。
 そこでこのグループを案内したのが、涸沢だったのだが、大新聞社から、「グルカ部隊は雪山訓練で涸沢に入山するのか?フォークランドへ派遣されるのか?」、としつこく電話取材があり、ついに横尾まで追いかけてきたのである。記事の方向付けをしてから取材する手法の典型的な感じがぬぐえなかった。もちろん、このグルカ兵と将校たちは、休暇で北アルプスを楽しんだのである。
 以来、涸沢圏谷は、我が社がお客さまを案内する北アルプスでもとくになじみの深い場所となっている。

北の大地の山々

 1985年に帯広畜産大学山岳部出身の大島義広(現大阪支店長)が入社したのを契機として、それまでの大雪山登山企画にとどまらず、多くの北海道の山々の企画へと広げてきた。大雪山からトムラウシ山への縦走登山は1987年から開始したが、宿泊の無人小屋を団体で使用することの問題に気付き、1990年にテント使用に切り替えた。だが、思いの外ツアーリーダーの負担も大きく、ご参加者も長い縦走路でご苦労されてきた。だから当社はこのコースの実施はその後数年でとりやめた。2009年7月に同じコースでツアー登山者ら8人が遭難死亡した事件はまだ記憶に新しいところである。
 北の大地の山々は標高が低くても高緯度にあり、森林限界も低く、気象条件は本州に比べ圧倒的に厳しい。それだけに登山本来の魅力に溢れているのだが、ツアー登山という商業登山として取り組むためには相応の安全と安心のための努力を要するのである。

槍穂高登山教室

 1990年夏、山と溪谷社創立60周年企画として、永続性のある登山企画を発表しよう、ということになり、なじみ深い槍穂高連峰での“登山教室"を運行することになった。最盛期には400人以上が10数コースに分かれて、班別行動するほど人気が高まった。当時の入山者のピークは8月お盆の時期だったが、この登山企画は8月最終週に実施した。一般登山者に迷惑をかけたくなかったからである。しかし、近年では、8月終わりから9月にかけてでも多くの夏山登山者が北アルプスを訪れている。1990年からスタートしたこの企画は名称を「ヤマケイ登山教室」と変え、「テーマのある山旅」を標榜しながら、過去の参加者累計は丸23年で3万人を越えてきた。
 24年前の8月終わりは、夏山シーズンの終わりでもあったが、“槍穂高登山教室”がその夏山登山シーズンを広げた、と言っても過言ではないかもしれない。

テーマのある山旅

 日帰りバス登山に人気が高まる理由は公共交通機関ではなかなかアプローチが不便な山へもチャーターバスで近づける点があるだろう。登山リーダー(ガイド)が同行するから安心感も強まる。「一人では行けない、でも行きたい。」との思いが募り、バス登山ツアーに参加される山好きは増えている。
 我が社は、低山といえども観光旅行の延長で山登りをとらえることはしていない。大手各社のバス登山ツアーとは異なる、専門特化会社として「アルパインだからできるテーマのある山旅」を展開してきた。気象やファーストエイドや女性専科や山男塾など、挙げればきりがない。こうしたテーマを登山の現場で実体験してもらい、山登りの奥深さと、山仲間がいることの楽しさを実感してもらうのも企画の根幹にある。
 そこでこの10年間力を入れているのが、山を学ぶ、「机上講座」である。

“山を学ぶ”机上講座

 この秋から翌春にかけての講座のタイトルを列記させていただくと次のとおり。「山岳気象大全(講師:猪熊隆之)」、「地形図とコンパス活用術(講師:佐々木亨)」、「山男のための雪山装備(講師:川名匡)」、「山のファーストエイド(講師:悳秀彦)」、「新雪・厳冬の山を撮る(講師:菊池哲男)」、「スノーシュー入門(講師:石丸哲也)」、「雪山日焼けフェイスケア(講師:橋本ワコ)」、「山で役立つスマートフォン(講師:川名匡)」、などである。
 はなはだ僭越ではあるが、自立した登山者が日本の登山人気を支えるようになることが我が社の国内登山事業の狙いである。「連れていってもらう。」のではなく、たとえリーダーやガイドに引率されていても登山は、自分自身の体力と知識と意欲を総動員してとりくむスポーツだから、他者依存ではいけないと思う。
 登山は大自然のなかでおこなう過酷な行動である。大自然はおおらかで私たちに安らぎを与えてくれる。登山は私たちに活力を導き出してくれる。しかし、大自然は私たちの予測を遙かに超えた存在にもなる。突然牙を剥き登山者に襲いかかることもある。安全だと確信していても隠れた危険に遭遇することがある。大自然は人間にとって脅威でもある。予測を超えた危険に対して常に的確な判断をすることは困難でもある。だからこそ登山者は可能な限り的確な判断をするために山を学ぶ姿勢をもっていなければならないと思う。それが登山ツアーを運行する立場であれば、よりその姿勢は強くなくてはならない、と肝に銘じているところである。