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2014/07/10 お知らせ

“創業45年の足跡をたどって”〈安心・安全への取り組み編〉高所旅行事前検診とツアー登山運行ガイドライン

   Newsletter 2014年7月号
平成26年7月10日 第360号
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文:黒 川 惠  (くろかわ さとし)
アルパインツアーサービス会長

 

〈安心・安全への取り組み編

高所検診は、足かけ40年の歴史

 1975年、エベレストへ続くトレッキングルート上、標高4280mの高所にあるペリチェの村に東京医科大学の早田義博教授らの尽力によって「エベレスト高山医学研究所」が設立された。この偉業を受け、創業からやっと会社組織として歩み始めたわが社もその設立に協力しながら、高所トレッキングへの参加者に対しては、東京医大・早田教授の協力の下で出発前の事前健康診断をおこなってきたのである。いま振り返るとペリチェでの診療にたずさわってこられた先生方と、この検診を通じて親しく接する機会を得ることのできた実に価値ある時期だったと思う。
 早田教授が医療現場を引退された後は、日本登山医学会の医師が受け手となって、日本の山岳旅行業界におけるパイオニア的専門会社との提携による画期的方策が2006年10月から、「登山者検診ネットワーク・パイロットスタディー」として稼働を開始した。これは、簡単に言うと高所コースに参加される方々に所定の検診項目を受診していただき、それを専門医が判定するシステムである。標高3,800m以上に宿泊するコースに申し込まれたお客さまには詳しい案内を送らせていただいている。

拡充をつづける、登山者検診

 パイロット・スタディーは2009年9月に終了し、現在は、わが社を幹事会社として高所旅行を取り扱う旅行業者6社が参画し、登山者検診ネットワークとして本格稼働している。また、参画医療機関は、当初の首都圏を中心とする7医療機関から、現在は23医療機関にまで拡充している。その内訳は、北海道1、宮城県1、新潟県1、長野県2、栃木県2、群馬県2、埼玉県2、東京都5、神奈川県1、千葉県1、富山県2、岐阜県1、京都府2である。

高所からのフィードバックの成果血中酸素飽和度の参考標準偏差 

 高所トレッキングに参加される方々には安心してトレッキングを堪能していただくために現地での健康調査にご協力をいただいている。ここで記録された健康データのメモを日本登山医学会にフィードバックすることで今後のより安心・安全な高所トレッキングにつなげたいと考えている。
 かつてエベレスト街道をトレッキングした、およそ500人のデータが事前諒承を得て収集され、それを基にして血中酸素飽和度(SpO2)の数値のグラフ化が日本登山医学会の医師によってなされている。これは一つの目安として有効活用され、多くのツアーリーダーたちにとって、高所における行動基準を示す際には心強い資料となっている。
 このデータの基が1000人になり、エベレスト街道のようになだらかではない、キリマンジャロ登山におけるSpO2の標準値が目安として示されるようになればいいのだが、と考えているところである。そのためには多くのご参加者の協力が必要となる。高所をめざす、次の人のために自分がデータを残すことがより有効な高所での安全対策に役立つ、ということをもっと広めてゆかなければならないと思うのである。

「ツアー登山運行ガイドライン」の存在とその遵守

 近年では多くの旅行会社が登山、トレッキング、ハイキングの企画を発表するようになってきたが、1999年9月の羊蹄山での遭難死亡事件がマスコミで大きく取り上げられ、最近では5年前のトムラウシ山、2年前の中国万里の長城での遭難が記憶に新しいところである。こうした経緯もあって、日本旅行業協会(JATA)では、ツアー登山の安全運行のために指針となるものを作成してきている。それが「ツアー登山運行ガイドライン」であり、JATAツアー登山部会(部会長・黒川惠)が作成している。書かれている内容は、たたき上げの山屋にとっては当たり前のことばかりである。
 2004年6月の初版から版を重ね、JATAはこのガイドラインの遵守を業界に呼びかけてきた。とくに力点を置いたのは、「ガイドレシオ(引率者と参加者の人数比率)の重要性」や、「引率者の必須能力」、「事前調査の重要性」、「通信機材の必要性」、「適切な保険への加入」、「参加者の健康状態把握」、「ツアー内容の適切な案内」等であり、それに加え、2013年2月改訂の「海外企画関連・増補版」では、「海外の高所における危険の存在」などが加筆され、旅行会社として配意すべき事項をまとめた内容となっている。


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 ガイドラインやマニュアルの類いに頼ることでは、本当の安心と安全にはつながらないのではないか、と言ったら乱暴かもしれませんが、「書かれているもの」がなければ、安全配慮もおろそかになり、サービス提供も不十分、ということではいけないと思っております。しかし残念ながら、世の中には高所ツアーの企画立案段階から安全配慮義務があることを知っているのだろうか、と懸念されるプランや、あいかわらず40人に1、2人の添乗員で山歩きしている場面も見受けられるのです。わが社は、そうしたケースを対岸の火事とせず、他山の石として、初心にかえり、「行ってよかった。アルパインでよかった。」と言っていただける山旅づくりと運行に専念してまいります。
 この夏もどうか、愉快な山仲間に出会えるアルパインツアーをお忘れなきよう、お願い申しあげる次第です。