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2014/05/10 お知らせ

海外渡航自由化50周年と、ATS“45年目の夏”

                                                                                                                                                            Newsletter 2014年5月号
平成26年5月10日 第358号
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文:黒 川 惠  (くろかわ さとし)
アルパインツアーサービス会長

〈ヨーロッパ・アルプス編〉

渡航自由化は、観光旅行自由化
 

 日本人は先の大戦後、自由な海外旅行ができなかった。持ち出し外貨制限以前の問題だった。だれでもが自由に海外旅行に出かけることができるようになったのは、1964年4月1日からである。それは、戦後の日本に大きな勇気を与えてくれた、1956年5月の日本隊による8千メートル峰マナスル初登頂から8年後、終戦からは19年も後のことだった。海外渡航自由化は、「観光旅行自由化」の第一歩でもあった。 
 1960年代の日本の登山界はマナスル初登頂の影響も大きく、登山人口は増加の一途をたどり、山岳遭難も多発していた。その多くは、岩壁や冬山でのクライマーの遭難であった。現代の山岳遭難事情とは異なる、時代背景と登山者気質があったのである。この時代に多くの社会人クライマーは、シベリア鉄道でヨーロッパ・アルプスをめざした。

マッターホルン北壁

 1965年8月にマッターホルン北壁を日本人として初めて登った、芳野満彦(ATS元会長、2012年2月5日逝去)のこのときのパートナーは、渡部恒明。芳野と渡部は、日本人クライマーでひしめくアイガー北壁から、マッターホルン北壁に転進した。55時間、2晩のビバークによる壮絶な登攀の末の壮挙だった。芳野は17歳のとき凍傷で失った両足先からの出血がひどく、マッターホルン北壁登攀後、渡部とアイガーに再び向かうことはできなかった。渡部は、別のパートナーとアイガー北壁に挑み、頂上直下で遭難死する。
 欧州アルプス三大 北 壁と称される、アイガー、グランドジョラス、マッターホルンのうち、その一つが芳野・渡部パーティーによって日本人初登攀がなされ、それは日本で大きく報道された。
 当時、ヨーロッパ・アルプスには多くの日本人クライマーが集まり、岩壁と氷河のアルプスに挑んでいた。しかし、そのふもとに広がるハイキングコースは、クライマーにとって早足で通り過ぎるアプローチでしかなかった。うねうねとつづく山道に咲き誇る高山植物の群落はただそこにある花であり、仰ぎ見るアルプスの鋭峰は、ただ登攀の対象だったのである。
 だが、そんなアルプスのふもとには、日本にはない4千メートル級の氷河の山々の大パノラマと山の花々があり、牧歌的な山麓の暮らしぶりと垢抜けた山のリゾートが広がっていることに気付かされたクライマーの一人が芳野満彦だった。

北壁からハイキングへ

 そして、1969年7月、アルパインツアーサービスの起源となる、芳野満彦をリーダーとする、ヨーロッパアルプス・ハイキングツアーが日本から初めて出発したのである。日本人海外渡航自由化から5年、観光旅行としてアルプスで山歩きを楽しむことは、「一人では行けない。でも行きたい。」と考える山好きな人びとにとって実に画期的な出来事だったのである。
 なぜなら、それまでのアルプスの山々は、そこを登攀対象とするクライマーだけの世界として日本の登山界は位置づけていたからである。それを、広く登山愛好家のためにハイキングという自然の楽しみ方を付け加える発想が1969年夏の企画の源泉となった。この源泉は、枯れることなく、いまでも蕩々と流れつづけ、脈々と受け継がれている。

山屋の系譜
 

 マッターホルン北壁からはじまったATS45年目の夏は、もうじき45回目の幕を開ける。先陣争いでひしめくアイガー北壁からマッターホルンへ転進し、壮挙をなしとげた先人のように、群れないフロンティア魂を持ち前とする、アルパインツアーは、以後山岳旅行分野のパイオニアとして、多くのヨーロッパ・アルプス登山とハイキングのツアー企画を発表してきた。1969年の夏が過ぎ、ATSは、いよいよ1971年春にエベレスト街道へのトレッキングを挙行することになる。このことは次回ヒマラヤ編でふれたい。
 

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 45年目のこの夏も、期待にたがわぬ、魅力溢れるたくさんのツアー企画で、山好きな皆さまを心からおもてなししたい、と社員一同がお待ち申しあげております。
 この夏、「愉快な山仲間」とともに、さわやかなアルプスの風に吹かれてみませんか。